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雑多な語り場。所謂「オタク」「同人」「二次創作」と呼ばれる要素全開かつ超ミーハーなので、そういったものが苦手な方は御注意を。更新は月2~3回程度ののんびりペースです。
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初のフロゲ二次創作小説、書きあがりましたのでこのブログにupいたします。
書きあがったはいいけど凶器とも言える長さになってしまったので(汗)二つに分割します。後編はまた明日upします。

以前にちょっとグダグダと言ったことですが、ピクシブとかで似たようなネタで書かれたものがあるかと思われます。基本的な状況設定だけでなく、細部のあれこれまでカブっているところが(一部)あります。
それを読んだ時点ですでにこの小説はほとんど書き上げられていたので本当に単なる偶然なのですが、後手の身で既知している以上その部分はどうしようかと悩んだ末、そのまま載せることにいたしました。
同じゲームを題材にして、同じキャラ使って同じ状況設定で書いた二次創作なので、こういうこともあるんだということで大変に心苦しいと思いつつ、どうかご容赦ください。(万が一ご本人様から苦情が来るようなことがあれば謝罪の上、削除させていただきます)【追記】4月11日にご本人様から拍手にてメッセージいただきました。ネタ被りについて寛大なお心でお許しくださいまして、誠にありがとうございました!



……という重苦しい前置きをしたわりには作品が相当グダグダとした残念な内容なので、自分でもったいぶっておきながら却って恥ずかしさが倍増してダメージくらっています。(苦)
いや、もうそんな「どれ」と腰を据えて見られるようなものではないですし。(汗)
二次創作ですから。単なる妄想の塊なので軽い気持ちでお願いいたします。

女主人公とアレッティオでラスボスに挑むお話。思いっきりラスボス戦クエストの内容ネタバレなので一度もラスボスと戦ったことがない方は注意。
あと捏造設定と情報不足による勘違いもちょくちょくあると思いますので気になる方は注意してください。
公式とはいっさい関係ございません。二次創作というものが苦手な方はご遠慮ください。

OKな方は下のリンク【英雄たちへのレクイエム】から、もしくはこちらからどうぞ。
……勿体ぶればぶるほど自分にダメージがくるという罠を知りました。(汗)

拍手[2回]







英雄たちへのレクイエム  〈1〉






 “彼女”とアレッティオが最後の昇級試験に合格してからほどなく、二人は『理想郷』と呼ばれていた地にたどり着いた。
 その地を初めて見たとき彼女は「――なんて、美しく、静かなところだろう」という感想を抱いた。そのあとはただただ感慨無量で。彼女自身はもちろん、話に聞いていた理想郷への羨望はあった。だがそれ以上に、英雄に強い憧れを抱いていたこの相棒とともに『ここ』に来られたことがなによりも嬉しかったからだ。


 アストラの地と名付けられた理想郷での最初のクエスト――それは『英雄の軌跡を探せ』というギルド主人からの直接の頼みであった。
 “英雄”と呼ばれる二人の開拓者が消息を絶ってから十年。おそらく、彼らは自分たちと同様このアストラの地へとたどり着いていたのだと思われる。そこで何を見たのか、何をしたのか――どうして消息を絶ってしまったのか。彼らを直接知る者たちの多くが抱いていた思いを一身に任された気がした。

 この依頼を引き受けることに勇気はいった。理想郷が空に浮いていることを考えると、彼らはこの地で失踪したに違いない。見かけは静かで、美しい遺跡とも言える場所だが、その奥に何が待っているのかはわからない。
 だが、依頼を引き受けることに迷いはなかった。ギルド主人の思いを叶えたかったのもあるし、彼女自身の好奇心もあったし、なにより――この相棒となら何があっても「絶対に大丈夫」だと思っていたからだ。それはアレッティオの方も同じで、ほとんど二つ返事でこの依頼を引き受けた。「もしかしたら憧れの英雄に会えるかもしれない」そんな淡い期待も抱きながら。


 そうして二人は順調にアストラの地を進んでいった。
 出てくるモンスターはケタ違いに強く、『砦』の中にはアストラムを動力炉とする機械仕掛けの怪物が何体も歩き回っていた。しかし、ここに来るにあたっての準備は万全にしていたし、ここまで来ることができた実力は伊達ではない。強敵も罠も仕掛けも物ともせず、二人は赤の英雄が道々に残した手記を拾いながら砦の奥へ奥へと足を踏み入れていった。

 はじめこそ美しいと思ったこの地の光景も、遺跡を見て回るうちにどこか不気味に思う部分も生まれてきた。建造物の残骸、純度の高いアストラム……この天空の地には明らかに高度な文明があった、はずだ。そもそも大地ごと宙に浮かせるなど、本国の技術をもってしてもできまい。
 フロンティア……現地の名称ではコフォル島で開拓の歴史が始まってから長く経つが、この島にそれだけ高い文明があったことすらごく最近まで発見されておらず、ましてそれが滅びた理由など……。いったい、なにがこの文明を滅ぼしたのか。
 英雄の手記を拾い集めていくうちに、彼らが『なにか』に感づき始めているのがわかる。今、まさにそれを体感している彼女とアレッティオも、どことなく不穏な空気を感じていた。“それ”が、英雄たちが失踪したこととなにか関係があるのではないか、と。

 そして、二人は英雄たちが帰って来なかった理由を知ることとなる。
 『理想郷』と呼ばれながらも滅びた文明……この島全体に関わった大いなる『あやまち』も――。





「――ッ! う、わ。危な……っ」
 “奴”から振り下ろされる攻撃をすんでのところでかわしたアレッティオはひゅっと息を呑んだ。がら空きだった体に今のを打ち込まれていたらただでは済まなかっただろう。だが、息をつく間もなく次が来る。
 ――そこに、双剣を構えた相棒が飛び出して攻撃を打ち落とす。
「大丈夫っ?」
 振り返った相棒の顔を見て、「あ、ああ。悪い」と返す。思えばこいつにはいつもこうやって助けられてばかりだよな、とそんなことが頭を過ぎった。

 今度は油断しないと誓い、ふたたび両手剣を握りなおして“奴”に立ち向かう。それと息を合わせるように相棒が双風塵を放って援護する。
 風の刃で“奴”がわずかに怯んだところへ一気に踏み込み、火炎の大剣をぶち込む。
 炎をまとった剣は確実に正確に当たった。なにせ『的』は大きい。これまで繰り出した攻撃もすべて命中している。――が、それがてんで効いていないのだ。やわな攻撃では傷ひとつつかず、強い一撃で傷をつけることができても、“奴”はそれをまったくものともしていないようだ。今回もまた同様で、それでもわずかに戦意は低下したのか『怒り』ともとれる猛攻はわずかに治まった。
 その間に二人は相手と距離を取り、息を整える。アレッティオも、その相棒ももう相当に息が上がっている。――もうどのくらい戦闘を続けているのだろうか。





 赤の英雄の『最期の手記』を見て、二人は言葉もなくその事実を受け入れていた。
 もしかしたら、という淡い期待はなかったでもないが、どちらかといえば「やはり」という気持ちの方が強かった。彼らと交友の深かったギルド主人やダンデスたちも、ある程度そのことは覚悟していたであろう。気分は重いが、彼らの最期を伝えなくてはならない。
 ……だが、彼らがここで最期を迎える『原因』となった真実は思いもよらぬものであった。

 『あれ』は絶望だと、手記に記されていた。この文明を滅ぼしたものの正体……また、それが英雄たちが命を落とした原因だった。
 『あれ』が何なのか、それをこの目で見ようと若き二人の開拓者はさらにその奥の部屋へと足を踏み入れた。

 ――そこにいたのは、見上げるほどに巨大な“怪物”。
 あのアストラムを動力とする機械たちと似たような雰囲気を持っていたが、それとは比べ物にならないくらいの威圧感を持っていた。
 体全体は赤茶けていて、まるで何十年も動かされずに錆びついてしまった機械のようだった。が、近づけば分かった。『それ』はまだ生きていたのだ。時おり痙攣するかのようにピクピクと腕が動いているのを見たときはヒヤリとした。

 そして、その腹部のあたりには青い輝きを放つ大剣が突き刺さっていた。これが、手記にあった青の英雄が命がけで施した『封印』なのだろう。
 封印されている限り、おそらくこの怪物は動かない。二人はそれを確認するかのように頷きあった。
 謎はまだ多く残る。どこか消化不良で、不安もある。後ろ髪を引かれる思いもする。が、英雄たちの最期の思いをくみ取り、これは触れずにそのままにしておくことにした。それが二人の出した結論であった。
 そうして二人はこの事実をギルドへ伝えようと、その場を去ろうとした。


 ――――その後のことは、今思えば一生の不覚といってもいいかもしれない。後をつけてきた違法開拓者に不意打ちをくらい、英雄たちが命がけで施した『封印』はあっさりと解かれてしまったのだ。
 
 息を吹き返したように動き出す“怪物”。だが、それでも二人に『逃げる』という選択肢はなかった。英雄たちの命を、無駄にしたくはなかったからだ。
 ――この怪物を倒す。
 まさに『英雄級の絆』を持つともいわれる二人の気持ちは同じであった。


 はじめのうちはまだ良かった。息を吹き返したものの赤茶けたその体はまだ満足に動けないらしく、放ってくるのはビームのようなものや魔法だけであった。もちろん強力極まりなかったが、それにさえ気を付けていれば距離を詰めて攻撃を当てることができる。
 しかし、ある程度の時間が経過すると様子が一変してしまった。――とうとう、本当に『封印』が解けたのだ。
 錆びたような体は赤黒い輝きを取り戻し、怪物は自由な動きを完全に取り戻した。
 その途端、周囲が闇に包まれる。今はまだ昼間で、部屋の壁や天井からは割れた隙間から光が注いでかなり明るかったはずだ。それは単なる暗闇ではない。地面や壁の感覚も、隣にいる相棒や目の前にいる怪物……周囲のモノの輪郭ははっきりと見える。が、今にも飲み込まれそうな底知れぬ“闇”が一帯を覆い尽くしていた。すべては息をするのも重苦しいような、“奴”の放つ威圧であった。
 おそらくは“奴”もアストラムを動力とする機械のようなものであろう。だが、ああいった無機質なモノたちとは違い、奴には怒り、憎しみ、苦しみといった叫びだしたくなるほどの負の感情が渦巻いているように思えた。それが周囲を覆い尽くす形容しがたい“闇”であった。

 ――英雄たちはこんなモノと対峙していたのか。今更になって足が竦む思いがした。それでも、

「なあ、相棒。おれたちで英雄のカタキを討ってやろうぜ」

 恐怖を振り切るように表情を引き締めたアレッティオの言葉に、彼女も同じ気持ちで頷いていた。
 その選択は今でも後悔していない。いや――今となっては後悔してはならないのだ。その途端、待っているのは『敗北』であろうから。
 気持ちだけは折れるわけにはいかない、と二人は歯を食いしばって戦い続けた。





 「絶望」――またはある部族に「最悪」と、言われていただけのことはある。
 手足が自由になった怪物の直接的な打撃はもちろん、見たこともない強力な魔法や、飛行からの突進乱舞。何より恐ろしいのは破壊力が桁違いのアストラムバーストだ。たとえ直撃は免れてもその波に中てられただけでアストラム中毒を引き起こすことがある。
 体の自由が利かなくなるアストラム中毒は即効性の薬があるとはいえ、二人が同時にかかってしまうとそこで“積み”だ。ゆえに、あまり一か所に固まっているわけにはいかず、だが離れて戦うとなるといつもの連携ができなくなり、攻撃や回復のタイミングを合わせることが困難になる。
 さらに、ここに来るにあたって準備は万全にしていたのだが、持てる薬の個数には限度がある。戦いが長引き、それが枯渇してきたのだ。

 アレッティオの両手剣の技は強力だ。現に、奴の体に傷と呼べるほどのものをつけるとしたらそれくらいしかない。だが強力になればなるほど技を放った後に大きな隙が生まれる。そこを素早い攻撃が得意な彼女がフォローするというのが、二人の戦い方であった。
 しかしこの時、長時間の戦いによる疲弊か彼女の援護が間に合わなかった。

「ああっ」
 攻撃の後の隙に奴からの直撃をくらったアレッティオが地面に叩きつけられた。
 彼女は慌てて駆け寄り、傷薬を施す。これまでに何度もおこなった回復行為。だが、今やこれも付け焼刃のようなものであった。傷は癒えても削られた体力は癒えない。体力がなければ攻撃をすることも、相手の攻撃を避けることもままならない。
「ごめん。わたしが、」
「おまえ、今の――」
 責任を感じてはらはらとする彼女の言葉を遮って、アレッティオは鋭く問いかけた。――今のが、最後ではなかったのかと。とうとう、持っていた傷薬を使い果たしてしまったのだ。

「大丈夫。まだ、魔法があるから」
 力強く言ったつもりではあったが、それはかなり危ない状況になったのだと二人は理解していた。
 彼女は自身で刃を振って戦うことが多いが、一方で回復や補助魔法といった味方をフォローする手段も持っている。だがそれらは発動に時間がかかるため、このようなギリギリの戦闘においてはかなり難しいタイミングを迫られる。回復が少しでも遅れれば命とりなのだ。ゆえに、普段は即効性の高いアイテムに頼っているがそれがないとなると……。
「わかった。じゃあ、おまえは少し離れて援護してくれ」
 アレッティオは一人であの怪物に攻撃を仕掛けるというのか。「そんな無茶な」と反論したが、彼はいたって真剣な顔で、
「べつにカッコつけて言ってんじゃない。今は、こうするしかないだろ?」
 そう言われると反論できない。今更あとには退けない以上、戦いを続ける手段は選んでいられない。だが、これもいつまで持つか……。


 こうしてしばしギリギリの持久戦がおこなわれた。
 アレッティオが単身で斬り込みにかかり、彼女が回復や補助の魔法をつかう。もちろん普段から敵によってはこういった戦い方をする場合もあるが、それはこうして安全な状態を構築した後に怒涛の連続攻撃を繰り出すという前提があるからこそだ。今は違う。ひたすらに傷ついた相棒を回復するといった繰り返し。アレッティオの攻撃の方も隙を作らぬよう慎重を規したため手ぬるいものになっている。これではいつまでたっても決定打とはいかない。
 底なしの体力を持つ相手の猛攻は止まることはなく、回復はその穴埋めをするにしかならない。いや、二人の体力が限界に近い今となってはマイナス寄りだ。
 本当に“持久”でしかないそれは、ただ力尽きるまでのリミットを引き延ばしているだけに過ぎない。そんなことは彼女も、アレッティオもわかっていた。だが「力尽きる」――その考えが頭に過ぎった彼女は首を振った。諦めてはならない。諦めた瞬間に『終わり』が来るのだから。

 それに、二人は無意味に持久戦を続けているわけではなかった。
 彼女は相棒が攻撃している間、少し離れた位置でいつでも魔法発動できるよう構えながら“奴”の動きを観察していた。攻撃はほぼすべて当たっている。だがいまいち効いていない。そこに弱点はないのか、と。
 そうしていくうち、彼女はあることに気がついた。
 “奴”は大抵の攻撃をほとんど防御行為もせず受けるがままになっている。大して効かないことがわかっているからだ。だが、ある一点に攻撃が向くと明らかな防御行為を見せていた。そこは――、

「アレッティオ」
 猛攻の隙を縫って相棒のもとに寄り、少し距離をとるよう促した。彼女になにか名案が浮かんだことを察したアレッティオはそれに従って彼女が放つ援護を頼りに“奴”からできる限り離れた。
「腹部の下あたり。たぶん、そこが弱点なんじゃないかって」
「腹の……? あの、英雄の剣が刺さってたところか」
 ぜえぜえと上がった息を整えながらアレッティオはそこを見やった。
 近づけばそれは確実にわかる。青く輝く大剣が深々と突き刺さっていた刺し痕が、ハッキリと残っているからだ。

「あそこに剣を刺して封印したってことは、あの部分に奴の動きを左右するものがあるってことだと思う」
 動きを左右するもの――おそらくは、動力炉であるアストラムではないか。それを破壊できれば。
 アストラムを破壊したことなどこれまでに経験はなかったが、英雄の剣が突き刺さっていたのだから刃は届くであろう。

 ……と、言うだけなら簡単なのだが、実際にやるとなるとあの位置に攻撃を打ち込むというのはかなり至難の業だ。
 アレッティオもいくつか攻撃を重ねるうちの、あの部分に刃を向けた時だけ防がれたことを思い出した。あそこが弱点だとしたら、それは“奴”自身もわかっているはずだ。
「アストラムはたぶん、あなたの剣ぐらいでないと破壊できないと思う。わたしが奴の気を逸らすから、お願い」
「チャンスは一度きり、か」
 彼女が攻撃に転じるとなると、その後の援護も回復もなくなる。このチャンスで仕留められなければ、どちらか……あるいは両方が反撃を直に食らってしまうであろう。

「――わかった。よっしゃあ! おれに任せろ、相棒」
 今まで闇雲だった攻撃が一転、突破口を見つけたことで気持ちが奮い立ったアレッティオは剣を構え直した。彼女は「もちろん」と頷いて自身の双剣を“奴”に向ける。
「あなたならやってくれるって信じてる。わたしが絶対に道を開く」
 もとより、互いに絶対の信頼を置いている仲だ。揺るぎなくそう言うと、彼女は「絶望」と称された怪物に立ち向かっていった。


 彼女の繰る双剣は威力こそ高くはないものの、素早い連続攻撃が持ち味となっている。“奴”の右に、左にと回り込み、嚇かしの攻撃を仕掛ける。
 ここで重要なのは、相手の気を逸らすことだ。わざと『弱点』と思われる部分へ攻撃を放つふりをして、防御をさせ――その死角に、彼女の相棒が潜り込んだ。

「喰らえぇッ!!」
 アレッティオの強烈な一撃が、“奴”の腹部を確実に捉えた。
 ここにきて、ようやくはじめて「手応え」らしきものを感じたといっていいだろう。悲鳴ともとれる奇声を上げながら難攻不落だった怪物はとうとう体勢を崩した。

 だが、まだ動力であるアストラムを破壊するには至っていない。アレッティオはさらにもう一撃、もう一撃と攻撃を加えていく。英雄がつけた傷の上を確実に狙って。
 わずかに露出したアストラムに亀裂が入っていくのがわかる。――いける。彼はそう確信した。これまでの疲労も忘れ、「ここで終わらせる」ただその一心に。


 ――怪物の奇声が響く中、バリンともバキンともつかない、金属が砕けたような音が聴こえた。アストラムが砕けた音ではないことは、目より先に感覚でアレッティオは感じ取った。
 次に、双剣を構えて怪物を牽制していた彼女にもそれは見えた。弾けるように砕け折れ、ゆっくりと地に落ちる相棒の剣の刃が――。

 彼の故郷の国の軍で扱われるものを模した少し赤みを帯びた刀身の両手剣。不思議な青い光を持つ英雄の剣とまではいかなくとも、その品質は決して悪いものではない。何度も主人とともに激戦を切り抜けてきた付き合いは長く、さらにここに来るにあたって可能な限りの強化も施していた。
 しかし“奴”の硬い装甲に何度も力任せに攻撃を打ち込み……そして、無慈悲ともいえる猛攻を何度も盾代わりに防いできたそれはアストラムへの強引な斬り込みにより、とうとう耐え切れなくなったのだ。よもや、こんなところで。

 それに対して「まずい」とショックを受ける間すら与えられなかった。
 己の弱点を攻め立てられ、怒り狂った“奴”が振り回した腕で至近距離にいたアレッティオは払い飛ばされた。刃の折れた剣は最早意味を持たず、ほぼ丸腰でその直撃を受けてしまう。
 それを見た彼の相棒は、ほとんど考えるより先に体が動いていた。我武者羅に“奴”の脚部に双剣の一点突きを食らわせる。先ほどのアストラムへの攻撃でダメージを負っていたことが効いていたのだろう、油断していた脚はバランスを崩し、怪物はとうとう膝をついた。


 それを見届けるか見届けないかのうちに、彼女は倒れ込んでいる相棒のもとへ駆け寄った。急いで回復魔法を施すが、思うように傷が癒えない。……もう、限界なのだ。彼の体力も、自分の気力も。
 彼女が抱き起こすと、アレッティオが弱い力で腕を掴み返してきたので幾分はホッとした。致命傷は避けられたようだ。
「もう、これ以上は」
 どちらともなく呟いた。今のうちなら。手遅れにならないうちに、決断を下さねばならない。
 英雄たちやギルド主人には申し訳ない気持ちがあったが、互いに相棒の命には代えられない。

 決断を下した彼女は頷いて『最後の手段』を取り出そうとした時だった。突然、肩を強く引かれ、彼女の視界が反転した。
 最初は何が起こったのか分からなかった。アレッティオに覆いかぶさるように抱きすくめられていて、その背後から“奴”が腕を振りおろし――。


 鈍い音と重い衝撃が走り、ふたりはともに吹き飛ばされた。
 ダン、ゴロゴロと打ち捨てられた丸太のように地面に叩きつけられ、転がる。
 一瞬止まりかけた息をヒュッと吹き戻し、彼女は咳き込んだ。疲労と痛みで目が霞み、喉はカラカラだった。土と埃と汗と……血の匂い。

 それから徐々に(実際はもっと短時間ではあったが)五感が戻っていくなか、彼女はふと己の手に生暖かい液状のものが流れ込むことに気付いた。
 彼女の手が触れていたのは、自分に覆いかぶさっている相棒の体。――ふたたび、息が止まる思いがした。
 彼女が慌てて身を起こすと、ゴトリと力なく崩れ落ちるアレッティオ。その背には大きな傷が。あの時、彼に庇われたのだとすぐに理解した。
 体中の血の気が引き、名前を呼ぼうとしたが声が出ない。
 焦燥しきった頭でとにかく止血だけでも、と魔法を使う。もとより多い方ではなかったが、最早底を尽きかけている魔力。対象の体力も、意識さえも危うくほとんど意味を成さない。

 ふいに、魔法を施している手を掴まれた。それは掴むというにはあまりにも弱々しく、震える手で触れているだけのようでもあった。
「…………も、い……から」
 アレッティオの声はいつもの溌溂としたものではなく、蚊の鳴くような掠れた声だった。それを聴いた途端、彼女はどうしようもなく胸が締め付けられた。
 ほとんど声になっていない声。だが、彼女は相棒の言わんとしていることを察したのだ。

「もう、いいから」
「おまえは、にげろ」
 そんなことを伝えるアレッティオに彼女は馬鹿なことを言うな、と怒鳴った。
 その時、背後で咆哮が響き、ハッと顔を向けた。焦燥で波立っていた心が一気に冷え込む。――“奴”が、くる。
 ほとんど限界にまで下げられたこちらの戦意に対し、怒りに狂った相手の戦意は極限にまで高まっているといい。
 アストラムの怪物とはいえ痛みは感じているようで、腹部と脚部の傷で思うように動けないらしい。それならば時間も稼げると思ったが、“奴”は背中の翼のような装甲を広げた。――突進してくるつもりなのだ。
 “奴”の飛行演武は厄介で、これまでも何度か繰り出されてきたがその速さに攻撃を当てることも防ぐこともできず物陰に隠れてしのぐしかなかった。だが今はそれもできない。

 彼女はほとんど考える間もなく立ち上がり、傷を負った相棒を背に守るように“奴”と向き合った。
 自身の獲物である二振りの剣が手元にないことにはもう気付いている。先ほどの攻撃をくらった時に取り落としたのだ。それでも、彼女は諦めなかった。


 ――ここを退けるものか。絶対に。


 極限の状況で、彼女の神経は高ぶっていた。目にもとまらぬスピードで突進してくる“奴”の動きですら、どこかスローモーションに見える。
 彼女はその間、目まぐるしく頭を回転させていた。最早それは理性ではなく本能であった。どうすれば生き残れるか。ただそれだけを。

 彼女は視界の端に飛び込んできた青い光に飛びついた。今、ここで唯一武器になるもの――あの怪物の腹部に突き刺さり封印を施していた、青の英雄の大剣。彼女はそれを掴み上げ、構える。少し体制を下げ、“奴”を正面に受け止める。
 生きるか死ぬか。これは賭けだった。だが、死ぬ気などさらさらなかった。
 生きて、生きて帰るんだ。相棒とふたりで生きて帰る。英雄たちも連れ戻す。死ぬ気で――生き抜いてやる。


「ああああああああッ!!」
 その重量に負けぬよう腹の底から気合の声を上げ、彼女は青の大剣を振りかぶった。
 狙うは、“奴”の腹部。何度も攻撃を打ちつけられ、深い亀裂が入ったアストラムただ一点に。

 彼女の振った剣は確実にそこを捉えた。
 振った力と“奴”が突進してきた力が正面でぶつかり合って相乗し、刃は深く切り込まれる。
 その反動もまた凄まじかったが、彼女は踏ん張った。全身の筋肉が悲鳴を上げて痙攣するが、それでも一歩たりとも退くわけにはいかなかった。その背後には大切な相棒がいるからだ。一度切り込んだこの剣を抜くわけにもいかない。この一撃を最後まで振り切るしかない。

 自身の生命線を破壊されまいと怪物は暴れ、引き下がろうとするが傷ついた脚部がそれを思うようにさせない。痛みと苦しみにもがきながら、ならばと背の装甲を広げ、飛び上がろうと試みる。
 完全に飛び上がられてしまえば重力の関係で斬り込みかかった剣を振り切ることが叶わなくなる。それまでにアストラムを破壊しなければ勝機はない。

 あともう一息。あと一歩なのだ。
 青の英雄に、アレッティオに、何度も攻撃を加えられたことで走った亀裂は深部にまで達し、“奴”の動力源であるアストラムは破壊寸前であった。
 彼女はそこから放たれる強いアストラム波を直に浴び、全身の麻痺が始まったことを感じた。アストラム中毒の症状だ。だが今は却って都合がいいかもしれない。痛みも疲労も息苦しささえも感じない。せめて、全身に力が入らなくなるそれまでには――。


 斬り込みが最深部にまで達したとき、ふいに握っている剣から強い魔力を感じた。自分のものではない。この怪物のものでもない。
 ――それはこの剣の持ち主の相棒……赤の英雄のものであった。強大な魔力を持っていたと言われる彼はこの剣に魔力を流し込み、青の英雄がそれを突き立てて“奴”を封印したのか…………などという解釈を考えたのはもっとずっと後のことで、今はただその魔力が自身の味方だということだけを彼女は確信していた。
 剣に残っていた魔力はアストラムに流れ込み、反応し、反発し、ショートのような現象を起こす。それは亀裂を伝って全体に広がり、アストラムを脆くした。

 ――今だ。

 これが最後とばかりに、彼女は全身全霊を込めて剣を振り切った。





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英雄たちへのレクイエム  〈1〉






 “彼女”とアレッティオが最後の昇級試験に合格してからほどなく、二人は『理想郷』と呼ばれていた地にたどり着いた。
 その地を初めて見たとき彼女は「――なんて、美しく、静かなところだろう」という感想を抱いた。そのあとはただただ感慨無量で。彼女自身はもちろん、話に聞いていた理想郷への羨望はあった。だがそれ以上に、英雄に強い憧れを抱いていたこの相棒とともに『ここ』に来られたことがなによりも嬉しかったからだ。


 アストラの地と名付けられた理想郷での最初のクエスト――それは『英雄の軌跡を探せ』というギルド主人からの直接の頼みであった。
 “英雄”と呼ばれる二人の開拓者が消息を絶ってから十年。おそらく、彼らは自分たちと同様このアストラの地へとたどり着いていたのだと思われる。そこで何を見たのか、何をしたのか――どうして消息を絶ってしまったのか。彼らを直接知る者たちの多くが抱いていた思いを一身に任された気がした。

 この依頼を引き受けることに勇気はいった。理想郷が空に浮いていることを考えると、彼らはこの地で失踪したに違いない。見かけは静かで、美しい遺跡とも言える場所だが、その奥に何が待っているのかはわからない。
 だが、依頼を引き受けることに迷いはなかった。ギルド主人の思いを叶えたかったのもあるし、彼女自身の好奇心もあったし、なにより――この相棒となら何があっても「絶対に大丈夫」だと思っていたからだ。それはアレッティオの方も同じで、ほとんど二つ返事でこの依頼を引き受けた。「もしかしたら憧れの英雄に会えるかもしれない」そんな淡い期待も抱きながら。


 そうして二人は順調にアストラの地を進んでいった。
 出てくるモンスターはケタ違いに強く、『砦』の中にはアストラムを動力炉とする機械仕掛けの怪物が何体も歩き回っていた。しかし、ここに来るにあたっての準備は万全にしていたし、ここまで来ることができた実力は伊達ではない。強敵も罠も仕掛けも物ともせず、二人は赤の英雄が道々に残した手記を拾いながら砦の奥へ奥へと足を踏み入れていった。

 はじめこそ美しいと思ったこの地の光景も、遺跡を見て回るうちにどこか不気味に思う部分も生まれてきた。建造物の残骸、純度の高いアストラム……この天空の地には明らかに高度な文明があった、はずだ。そもそも大地ごと宙に浮かせるなど、本国の技術をもってしてもできまい。
 フロンティア……現地の名称ではコフォル島で開拓の歴史が始まってから長く経つが、この島にそれだけ高い文明があったことすらごく最近まで発見されておらず、ましてそれが滅びた理由など……。いったい、なにがこの文明を滅ぼしたのか。
 英雄の手記を拾い集めていくうちに、彼らが『なにか』に感づき始めているのがわかる。今、まさにそれを体感している彼女とアレッティオも、どことなく不穏な空気を感じていた。“それ”が、英雄たちが失踪したこととなにか関係があるのではないか、と。

 そして、二人は英雄たちが帰って来なかった理由を知ることとなる。
 『理想郷』と呼ばれながらも滅びた文明……この島全体に関わった大いなる『あやまち』も――。





「――ッ! う、わ。危な……っ」
 “奴”から振り下ろされる攻撃をすんでのところでかわしたアレッティオはひゅっと息を呑んだ。がら空きだった体に今のを打ち込まれていたらただでは済まなかっただろう。だが、息をつく間もなく次が来る。
 ――そこに、双剣を構えた相棒が飛び出して攻撃を打ち落とす。
「大丈夫っ?」
 振り返った相棒の顔を見て、「あ、ああ。悪い」と返す。思えばこいつにはいつもこうやって助けられてばかりだよな、とそんなことが頭を過ぎった。

 今度は油断しないと誓い、ふたたび両手剣を握りなおして“奴”に立ち向かう。それと息を合わせるように相棒が双風塵を放って援護する。
 風の刃で“奴”がわずかに怯んだところへ一気に踏み込み、火炎の大剣をぶち込む。
 炎をまとった剣は確実に正確に当たった。なにせ『的』は大きい。これまで繰り出した攻撃もすべて命中している。――が、それがてんで効いていないのだ。やわな攻撃では傷ひとつつかず、強い一撃で傷をつけることができても、“奴”はそれをまったくものともしていないようだ。今回もまた同様で、それでもわずかに戦意は低下したのか『怒り』ともとれる猛攻はわずかに治まった。
 その間に二人は相手と距離を取り、息を整える。アレッティオも、その相棒ももう相当に息が上がっている。――もうどのくらい戦闘を続けているのだろうか。





 赤の英雄の『最期の手記』を見て、二人は言葉もなくその事実を受け入れていた。
 もしかしたら、という淡い期待はなかったでもないが、どちらかといえば「やはり」という気持ちの方が強かった。彼らと交友の深かったギルド主人やダンデスたちも、ある程度そのことは覚悟していたであろう。気分は重いが、彼らの最期を伝えなくてはならない。
 ……だが、彼らがここで最期を迎える『原因』となった真実は思いもよらぬものであった。

 『あれ』は絶望だと、手記に記されていた。この文明を滅ぼしたものの正体……また、それが英雄たちが命を落とした原因だった。
 『あれ』が何なのか、それをこの目で見ようと若き二人の開拓者はさらにその奥の部屋へと足を踏み入れた。

 ――そこにいたのは、見上げるほどに巨大な“怪物”。
 あのアストラムを動力とする機械たちと似たような雰囲気を持っていたが、それとは比べ物にならないくらいの威圧感を持っていた。
 体全体は赤茶けていて、まるで何十年も動かされずに錆びついてしまった機械のようだった。が、近づけば分かった。『それ』はまだ生きていたのだ。時おり痙攣するかのようにピクピクと腕が動いているのを見たときはヒヤリとした。

 そして、その腹部のあたりには青い輝きを放つ大剣が突き刺さっていた。これが、手記にあった青の英雄が命がけで施した『封印』なのだろう。
 封印されている限り、おそらくこの怪物は動かない。二人はそれを確認するかのように頷きあった。
 謎はまだ多く残る。どこか消化不良で、不安もある。後ろ髪を引かれる思いもする。が、英雄たちの最期の思いをくみ取り、これは触れずにそのままにしておくことにした。それが二人の出した結論であった。
 そうして二人はこの事実をギルドへ伝えようと、その場を去ろうとした。


 ――――その後のことは、今思えば一生の不覚といってもいいかもしれない。後をつけてきた違法開拓者に不意打ちをくらい、英雄たちが命がけで施した『封印』はあっさりと解かれてしまったのだ。
 
 息を吹き返したように動き出す“怪物”。だが、それでも二人に『逃げる』という選択肢はなかった。英雄たちの命を、無駄にしたくはなかったからだ。
 ――この怪物を倒す。
 まさに『英雄級の絆』を持つともいわれる二人の気持ちは同じであった。


 はじめのうちはまだ良かった。息を吹き返したものの赤茶けたその体はまだ満足に動けないらしく、放ってくるのはビームのようなものや魔法だけであった。もちろん強力極まりなかったが、それにさえ気を付けていれば距離を詰めて攻撃を当てることができる。
 しかし、ある程度の時間が経過すると様子が一変してしまった。――とうとう、本当に『封印』が解けたのだ。
 錆びたような体は赤黒い輝きを取り戻し、怪物は自由な動きを完全に取り戻した。
 その途端、周囲が闇に包まれる。今はまだ昼間で、部屋の壁や天井からは割れた隙間から光が注いでかなり明るかったはずだ。それは単なる暗闇ではない。地面や壁の感覚も、隣にいる相棒や目の前にいる怪物……周囲のモノの輪郭ははっきりと見える。が、今にも飲み込まれそうな底知れぬ“闇”が一帯を覆い尽くしていた。すべては息をするのも重苦しいような、“奴”の放つ威圧であった。
 おそらくは“奴”もアストラムを動力とする機械のようなものであろう。だが、ああいった無機質なモノたちとは違い、奴には怒り、憎しみ、苦しみといった叫びだしたくなるほどの負の感情が渦巻いているように思えた。それが周囲を覆い尽くす形容しがたい“闇”であった。

 ――英雄たちはこんなモノと対峙していたのか。今更になって足が竦む思いがした。それでも、

「なあ、相棒。おれたちで英雄のカタキを討ってやろうぜ」

 恐怖を振り切るように表情を引き締めたアレッティオの言葉に、彼女も同じ気持ちで頷いていた。
 その選択は今でも後悔していない。いや――今となっては後悔してはならないのだ。その途端、待っているのは『敗北』であろうから。
 気持ちだけは折れるわけにはいかない、と二人は歯を食いしばって戦い続けた。





 「絶望」――またはある部族に「最悪」と、言われていただけのことはある。
 手足が自由になった怪物の直接的な打撃はもちろん、見たこともない強力な魔法や、飛行からの突進乱舞。何より恐ろしいのは破壊力が桁違いのアストラムバーストだ。たとえ直撃は免れてもその波に中てられただけでアストラム中毒を引き起こすことがある。
 体の自由が利かなくなるアストラム中毒は即効性の薬があるとはいえ、二人が同時にかかってしまうとそこで“積み”だ。ゆえに、あまり一か所に固まっているわけにはいかず、だが離れて戦うとなるといつもの連携ができなくなり、攻撃や回復のタイミングを合わせることが困難になる。
 さらに、ここに来るにあたって準備は万全にしていたのだが、持てる薬の個数には限度がある。戦いが長引き、それが枯渇してきたのだ。

 アレッティオの両手剣の技は強力だ。現に、奴の体に傷と呼べるほどのものをつけるとしたらそれくらいしかない。だが強力になればなるほど技を放った後に大きな隙が生まれる。そこを素早い攻撃が得意な彼女がフォローするというのが、二人の戦い方であった。
 しかしこの時、長時間の戦いによる疲弊か彼女の援護が間に合わなかった。

「ああっ」
 攻撃の後の隙に奴からの直撃をくらったアレッティオが地面に叩きつけられた。
 彼女は慌てて駆け寄り、傷薬を施す。これまでに何度もおこなった回復行為。だが、今やこれも付け焼刃のようなものであった。傷は癒えても削られた体力は癒えない。体力がなければ攻撃をすることも、相手の攻撃を避けることもままならない。
「ごめん。わたしが、」
「おまえ、今の――」
 責任を感じてはらはらとする彼女の言葉を遮って、アレッティオは鋭く問いかけた。――今のが、最後ではなかったのかと。とうとう、持っていた傷薬を使い果たしてしまったのだ。

「大丈夫。まだ、魔法があるから」
 力強く言ったつもりではあったが、それはかなり危ない状況になったのだと二人は理解していた。
 彼女は自身で刃を振って戦うことが多いが、一方で回復や補助魔法といった味方をフォローする手段も持っている。だがそれらは発動に時間がかかるため、このようなギリギリの戦闘においてはかなり難しいタイミングを迫られる。回復が少しでも遅れれば命とりなのだ。ゆえに、普段は即効性の高いアイテムに頼っているがそれがないとなると……。
「わかった。じゃあ、おまえは少し離れて援護してくれ」
 アレッティオは一人であの怪物に攻撃を仕掛けるというのか。「そんな無茶な」と反論したが、彼はいたって真剣な顔で、
「べつにカッコつけて言ってんじゃない。今は、こうするしかないだろ?」
 そう言われると反論できない。今更あとには退けない以上、戦いを続ける手段は選んでいられない。だが、これもいつまで持つか……。


 こうしてしばしギリギリの持久戦がおこなわれた。
 アレッティオが単身で斬り込みにかかり、彼女が回復や補助の魔法をつかう。もちろん普段から敵によってはこういった戦い方をする場合もあるが、それはこうして安全な状態を構築した後に怒涛の連続攻撃を繰り出すという前提があるからこそだ。今は違う。ひたすらに傷ついた相棒を回復するといった繰り返し。アレッティオの攻撃の方も隙を作らぬよう慎重を規したため手ぬるいものになっている。これではいつまでたっても決定打とはいかない。
 底なしの体力を持つ相手の猛攻は止まることはなく、回復はその穴埋めをするにしかならない。いや、二人の体力が限界に近い今となってはマイナス寄りだ。
 本当に“持久”でしかないそれは、ただ力尽きるまでのリミットを引き延ばしているだけに過ぎない。そんなことは彼女も、アレッティオもわかっていた。だが「力尽きる」――その考えが頭に過ぎった彼女は首を振った。諦めてはならない。諦めた瞬間に『終わり』が来るのだから。

 それに、二人は無意味に持久戦を続けているわけではなかった。
 彼女は相棒が攻撃している間、少し離れた位置でいつでも魔法発動できるよう構えながら“奴”の動きを観察していた。攻撃はほぼすべて当たっている。だがいまいち効いていない。そこに弱点はないのか、と。
 そうしていくうち、彼女はあることに気がついた。
 “奴”は大抵の攻撃をほとんど防御行為もせず受けるがままになっている。大して効かないことがわかっているからだ。だが、ある一点に攻撃が向くと明らかな防御行為を見せていた。そこは――、

「アレッティオ」
 猛攻の隙を縫って相棒のもとに寄り、少し距離をとるよう促した。彼女になにか名案が浮かんだことを察したアレッティオはそれに従って彼女が放つ援護を頼りに“奴”からできる限り離れた。
「腹部の下あたり。たぶん、そこが弱点なんじゃないかって」
「腹の……? あの、英雄の剣が刺さってたところか」
 ぜえぜえと上がった息を整えながらアレッティオはそこを見やった。
 近づけばそれは確実にわかる。青く輝く大剣が深々と突き刺さっていた刺し痕が、ハッキリと残っているからだ。

「あそこに剣を刺して封印したってことは、あの部分に奴の動きを左右するものがあるってことだと思う」
 動きを左右するもの――おそらくは、動力炉であるアストラムではないか。それを破壊できれば。
 アストラムを破壊したことなどこれまでに経験はなかったが、英雄の剣が突き刺さっていたのだから刃は届くであろう。

 ……と、言うだけなら簡単なのだが、実際にやるとなるとあの位置に攻撃を打ち込むというのはかなり至難の業だ。
 アレッティオもいくつか攻撃を重ねるうちの、あの部分に刃を向けた時だけ防がれたことを思い出した。あそこが弱点だとしたら、それは“奴”自身もわかっているはずだ。
「アストラムはたぶん、あなたの剣ぐらいでないと破壊できないと思う。わたしが奴の気を逸らすから、お願い」
「チャンスは一度きり、か」
 彼女が攻撃に転じるとなると、その後の援護も回復もなくなる。このチャンスで仕留められなければ、どちらか……あるいは両方が反撃を直に食らってしまうであろう。

「――わかった。よっしゃあ! おれに任せろ、相棒」
 今まで闇雲だった攻撃が一転、突破口を見つけたことで気持ちが奮い立ったアレッティオは剣を構え直した。彼女は「もちろん」と頷いて自身の双剣を“奴”に向ける。
「あなたならやってくれるって信じてる。わたしが絶対に道を開く」
 もとより、互いに絶対の信頼を置いている仲だ。揺るぎなくそう言うと、彼女は「絶望」と称された怪物に立ち向かっていった。


 彼女の繰る双剣は威力こそ高くはないものの、素早い連続攻撃が持ち味となっている。“奴”の右に、左にと回り込み、嚇かしの攻撃を仕掛ける。
 ここで重要なのは、相手の気を逸らすことだ。わざと『弱点』と思われる部分へ攻撃を放つふりをして、防御をさせ――その死角に、彼女の相棒が潜り込んだ。

「喰らえぇッ!!」
 アレッティオの強烈な一撃が、“奴”の腹部を確実に捉えた。
 ここにきて、ようやくはじめて「手応え」らしきものを感じたといっていいだろう。悲鳴ともとれる奇声を上げながら難攻不落だった怪物はとうとう体勢を崩した。

 だが、まだ動力であるアストラムを破壊するには至っていない。アレッティオはさらにもう一撃、もう一撃と攻撃を加えていく。英雄がつけた傷の上を確実に狙って。
 わずかに露出したアストラムに亀裂が入っていくのがわかる。――いける。彼はそう確信した。これまでの疲労も忘れ、「ここで終わらせる」ただその一心に。


 ――怪物の奇声が響く中、バリンともバキンともつかない、金属が砕けたような音が聴こえた。アストラムが砕けた音ではないことは、目より先に感覚でアレッティオは感じ取った。
 次に、双剣を構えて怪物を牽制していた彼女にもそれは見えた。弾けるように砕け折れ、ゆっくりと地に落ちる相棒の剣の刃が――。

 彼の故郷の国の軍で扱われるものを模した少し赤みを帯びた刀身の両手剣。不思議な青い光を持つ英雄の剣とまではいかなくとも、その品質は決して悪いものではない。何度も主人とともに激戦を切り抜けてきた付き合いは長く、さらにここに来るにあたって可能な限りの強化も施していた。
 しかし“奴”の硬い装甲に何度も力任せに攻撃を打ち込み……そして、無慈悲ともいえる猛攻を何度も盾代わりに防いできたそれはアストラムへの強引な斬り込みにより、とうとう耐え切れなくなったのだ。よもや、こんなところで。

 それに対して「まずい」とショックを受ける間すら与えられなかった。
 己の弱点を攻め立てられ、怒り狂った“奴”が振り回した腕で至近距離にいたアレッティオは払い飛ばされた。刃の折れた剣は最早意味を持たず、ほぼ丸腰でその直撃を受けてしまう。
 それを見た彼の相棒は、ほとんど考えるより先に体が動いていた。我武者羅に“奴”の脚部に双剣の一点突きを食らわせる。先ほどのアストラムへの攻撃でダメージを負っていたことが効いていたのだろう、油断していた脚はバランスを崩し、怪物はとうとう膝をついた。


 それを見届けるか見届けないかのうちに、彼女は倒れ込んでいる相棒のもとへ駆け寄った。急いで回復魔法を施すが、思うように傷が癒えない。……もう、限界なのだ。彼の体力も、自分の気力も。
 彼女が抱き起こすと、アレッティオが弱い力で腕を掴み返してきたので幾分はホッとした。致命傷は避けられたようだ。
「もう、これ以上は」
 どちらともなく呟いた。今のうちなら。手遅れにならないうちに、決断を下さねばならない。
 英雄たちやギルド主人には申し訳ない気持ちがあったが、互いに相棒の命には代えられない。

 決断を下した彼女は頷いて『最後の手段』を取り出そうとした時だった。突然、肩を強く引かれ、彼女の視界が反転した。
 最初は何が起こったのか分からなかった。アレッティオに覆いかぶさるように抱きすくめられていて、その背後から“奴”が腕を振りおろし――。


 鈍い音と重い衝撃が走り、ふたりはともに吹き飛ばされた。
 ダン、ゴロゴロと打ち捨てられた丸太のように地面に叩きつけられ、転がる。
 一瞬止まりかけた息をヒュッと吹き戻し、彼女は咳き込んだ。疲労と痛みで目が霞み、喉はカラカラだった。土と埃と汗と……血の匂い。

 それから徐々に(実際はもっと短時間ではあったが)五感が戻っていくなか、彼女はふと己の手に生暖かい液状のものが流れ込むことに気付いた。
 彼女の手が触れていたのは、自分に覆いかぶさっている相棒の体。――ふたたび、息が止まる思いがした。
 彼女が慌てて身を起こすと、ゴトリと力なく崩れ落ちるアレッティオ。その背には大きな傷が。あの時、彼に庇われたのだとすぐに理解した。
 体中の血の気が引き、名前を呼ぼうとしたが声が出ない。
 焦燥しきった頭でとにかく止血だけでも、と魔法を使う。もとより多い方ではなかったが、最早底を尽きかけている魔力。対象の体力も、意識さえも危うくほとんど意味を成さない。

 ふいに、魔法を施している手を掴まれた。それは掴むというにはあまりにも弱々しく、震える手で触れているだけのようでもあった。
「…………も、い……から」
 アレッティオの声はいつもの溌溂としたものではなく、蚊の鳴くような掠れた声だった。それを聴いた途端、彼女はどうしようもなく胸が締め付けられた。
 ほとんど声になっていない声。だが、彼女は相棒の言わんとしていることを察したのだ。

「もう、いいから」
「おまえは、にげろ」
 そんなことを伝えるアレッティオに彼女は馬鹿なことを言うな、と怒鳴った。
 その時、背後で咆哮が響き、ハッと顔を向けた。焦燥で波立っていた心が一気に冷え込む。――“奴”が、くる。
 ほとんど限界にまで下げられたこちらの戦意に対し、怒りに狂った相手の戦意は極限にまで高まっているといい。
 アストラムの怪物とはいえ痛みは感じているようで、腹部と脚部の傷で思うように動けないらしい。それならば時間も稼げると思ったが、“奴”は背中の翼のような装甲を広げた。――突進してくるつもりなのだ。
 “奴”の飛行演武は厄介で、これまでも何度か繰り出されてきたがその速さに攻撃を当てることも防ぐこともできず物陰に隠れてしのぐしかなかった。だが今はそれもできない。

 彼女はほとんど考える間もなく立ち上がり、傷を負った相棒を背に守るように“奴”と向き合った。
 自身の獲物である二振りの剣が手元にないことにはもう気付いている。先ほどの攻撃をくらった時に取り落としたのだ。それでも、彼女は諦めなかった。


 ――ここを退けるものか。絶対に。


 極限の状況で、彼女の神経は高ぶっていた。目にもとまらぬスピードで突進してくる“奴”の動きですら、どこかスローモーションに見える。
 彼女はその間、目まぐるしく頭を回転させていた。最早それは理性ではなく本能であった。どうすれば生き残れるか。ただそれだけを。

 彼女は視界の端に飛び込んできた青い光に飛びついた。今、ここで唯一武器になるもの――あの怪物の腹部に突き刺さり封印を施していた、青の英雄の大剣。彼女はそれを掴み上げ、構える。少し体制を下げ、“奴”を正面に受け止める。
 生きるか死ぬか。これは賭けだった。だが、死ぬ気などさらさらなかった。
 生きて、生きて帰るんだ。相棒とふたりで生きて帰る。英雄たちも連れ戻す。死ぬ気で――生き抜いてやる。


「ああああああああッ!!」
 その重量に負けぬよう腹の底から気合の声を上げ、彼女は青の大剣を振りかぶった。
 狙うは、“奴”の腹部。何度も攻撃を打ちつけられ、深い亀裂が入ったアストラムただ一点に。

 彼女の振った剣は確実にそこを捉えた。
 振った力と“奴”が突進してきた力が正面でぶつかり合って相乗し、刃は深く切り込まれる。
 その反動もまた凄まじかったが、彼女は踏ん張った。全身の筋肉が悲鳴を上げて痙攣するが、それでも一歩たりとも退くわけにはいかなかった。その背後には大切な相棒がいるからだ。一度切り込んだこの剣を抜くわけにもいかない。この一撃を最後まで振り切るしかない。

 自身の生命線を破壊されまいと怪物は暴れ、引き下がろうとするが傷ついた脚部がそれを思うようにさせない。痛みと苦しみにもがきながら、ならばと背の装甲を広げ、飛び上がろうと試みる。
 完全に飛び上がられてしまえば重力の関係で斬り込みかかった剣を振り切ることが叶わなくなる。それまでにアストラムを破壊しなければ勝機はない。

 あともう一息。あと一歩なのだ。
 青の英雄に、アレッティオに、何度も攻撃を加えられたことで走った亀裂は深部にまで達し、“奴”の動力源であるアストラムは破壊寸前であった。
 彼女はそこから放たれる強いアストラム波を直に浴び、全身の麻痺が始まったことを感じた。アストラム中毒の症状だ。だが今は却って都合がいいかもしれない。痛みも疲労も息苦しささえも感じない。せめて、全身に力が入らなくなるそれまでには――。


 斬り込みが最深部にまで達したとき、ふいに握っている剣から強い魔力を感じた。自分のものではない。この怪物のものでもない。
 ――それはこの剣の持ち主の相棒……赤の英雄のものであった。強大な魔力を持っていたと言われる彼はこの剣に魔力を流し込み、青の英雄がそれを突き立てて“奴”を封印したのか…………などという解釈を考えたのはもっとずっと後のことで、今はただその魔力が自身の味方だということだけを彼女は確信していた。
 剣に残っていた魔力はアストラムに流れ込み、反応し、反発し、ショートのような現象を起こす。それは亀裂を伝って全体に広がり、アストラムを脆くした。

 ――今だ。

 これが最後とばかりに、彼女は全身全霊を込めて剣を振り切った。





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